このたび一身上の都合により(その2)


私が「次のところに行きたい」と伝えてから、2週間後の2月の中旬、派遣されている会社に担当営業がやってきたのであります。


 「お忙しいところすいません」

 「いえいえ」

 「お仕事のほうはどうですか?」

 「いやー、一時期ものすごいヒマだったんですけど、年度末が近づいてきたせいかだんだん忙しくなってきてますね」

 「そうですか。それでtotsugekiさんの契約の件なんですけど……」

 「はい」

 「えー、実は先月入ったDさんが3月いっぱいで辞めたいという連絡をいただきまして」

 「あ、やっぱりそうですか」

 「それとHさんが海外旅行に行くので5月いっぱいで辞めることが決定したんですよ」

 「あら、そうですか。Hさんはもう2、3年こちらにいるんですよね? 彼女が辞めちゃうとちょっと大変ですね」

 「ええ、それにAさんもぎっくり腰であまり調子がよくないですしね」

 「ああ、かなり辛そうですよね」

 「で、いま現在ご紹介できるお仕事の状況なんですけど」

 「はい」

 「例年、3、4月に仕事が集中して、夏は仕事が少なくなって、また秋に仕事が増える……といった感じなんですよ」

 「ああ、そうですか。なんとなくそんな気はしてました」

 「ですので、totsugekiさんには無理をきいてもらっているので、ぜひいいところをご紹介したいと思ってるんです」

 「いやあ、そうですか。それはとてもありがたいんですけど、別にボクはどんな仕事でもいいですよ。やれといわれればなんでもしますしね。でも、まあ自宅から距離が近いと助かりますけど」

 「いえいえ、そういうわけにはいきません。totsugekiさんには絶対にいいところをご紹介させていただきます」

 「そうですか、それは楽しみですね」

 「ご希望とかあります?」

 「いえ、特にありませんけど」

 「……そうですか」

 「……」

 「……」

 「……じゃあ、とりあえず4月まではいますよ」

 「え?」

 「Hさんまで辞めちゃうんじゃちょっと大変ですからね」

 「本当ですか?」

 「ええ、そのかわりなにがあろうと4月いっぱいで契約は切ってもらって、5月の連休は休ませてもらいます」

 「はい、もちろんです」

 「あとは新しく来る人しだいですけど、まあそれまではなんとかなるでしょう」

 「わかりました、ありがとうございます」

 「いえいえ、じゃあそういうことでお願いします」


なんてやりとりがあって、2月いっぱいが→3月いっぱいに→それが4月いっぱいへとやるせない事情によりだらだらとシフトしていったのですが、三度目の正直という言葉もありますように、私自身


 「ああ、この会社も4月いっぱいでやっとおさらばだー」


と、思わず祝杯をあげたいくらいのうきうきな気分でいたのでありました。