[blog]病は気から その2


2006年5月10日エントリーの「[blog]病は気から その1(d:id:totsugeki:20060510)」の続き.

先生のお墨付きをもらったものの,だからといって体調がよくなるわけでもなく,なにやら浮かぬ気持ちで会社へと戻り,会社の玄関を開けて社内に一歩入ると,


 「いやあ〜,よかったね結核じゃなくて!!」


とみんながうれしそうに出迎えてくれたのである.

なんでこの人たちは検査の結果を知っているのだろうか? といぶかしんでいたら,そういえばさっき先生が会社に連絡をするといっていたのを思い出した.だもんで,


 ちっ! よけいなことしやがって


と心のなかで舌打ちしつつ,検査に行ったせいで仕事が遅れてしまったので,うれしそうに「よかったね,よかったね」と喜んでいるみんなを尻目に,さっそく仕事に取りかかったのである.

と,ここで誤解がないように説明しておくと,私が結核ではなかったことが判明してみんなとても喜んでいるのに,なんで私はそのことを素直に喜べないのかというと,長期の体調不良のために気を病んでいたからではない.

なんで私が素直に「ありがとうございます.ご心配おかけしました」といえなかったのかというと,彼らがむじゃきにはしゃいでいるのは


 私が結核にかかっていなかったから


ではなく,私が結核ではなかったことが判明したことによって


 自分たちが結核に罹患してなくてよかった


というのを喜んでいるということを知っていたからである.だから素直に上記のセリフを口にすることができなかったのだ.

ただ私は,基本的に彼らの根は正直で善良な人たちだということも知っていた(なかには本当に自分のことしか考えていないような奴が約1名ほどいたが).

そして私のことを本当に気にかけていて身を案じてくれている人もいるということも知っていた.

だが,そのときばかりはみな


 「自分たちが結核に罹患しているリスクがなくて本当によかった」


ということだけを喜んでいたのである.

だから私は素直になることができなかったのだが,別に私はそのことを責めるつもりはなかった.なぜならみんな自分の身を守るだけで精一杯なのを知っていたからである.

たしかに「いくら会社の人間とはいえ,もし自分がその人のせいで結核に感染していたら……」などとちょっと考えるだけでもおそろしい.

だが,「自分が結核に感染しているリスクはなかった」というのはまわりの人間からすればとても幸福なことだが,結核を疑われていた当の本人からすれば,もともと自分では結核だなんてこれっぽっちも思っていなかったわけで,それに結核ではないことが判明したからといって劇的に体調がよくなるわけでもなく,そのうえいくら検査のためとはいえ,なかばむりやり診療所に連行され貴重な時間をつぶしてしまったわけで,そのせいで夜遅くまで残業が確定なのである.

しかもおそろしいことに私の体が医者のお墨付きの健康体だということがわかってしまったおかげで,社内には


 「これでますます安心して仕事に打ち込めるね,totsugeki君」


といったふうな空気が流れはじめていたのである.

そして具合が悪いから精密検査に行って来たのにもかかわらず,その日もいつものように夜遅くまで一人ぼっちで残業をし,


 「なんでボクはいつも一人で夜遅くまで仕事をしていないといけないのだろうか?」


といつごろから考え始めたのかもわからないくらい前から考えている疑問を抱きつつ,終電でふらふらと自宅に帰ったのだが,微熱と頭痛でもうろうとする意識のなかで,すこぶる健康体なのになんで私の具合は悪いのかということを電車に揺られながらつらつらと考えてみたのであった…….


……またもや続く