[blog]病は気から その1


なぜだか理由はわからないが,今年の3月の末ごろから体調を崩し,テニスをすることさえもままならなかったのだが,おかげさまでだいぶよくなってきたようである.

かれこれ2ヶ月間ほど鼻が詰まりっぱなしで熟睡することもできず,ニオイがしないので料理の味もわからず,おまけに微熱のせいで酒も飲めず,極端に代謝が低くなっていたせいで5月に入っても毎日毛布にくるまって過ごしていたのだが,元気になったいま思い出すとまるでウソのようだが,そんなふうに思えるのも体調がよくなったからこそである.

そんなことを考えていたら,ふと前に編集プロダクションで働いていたときにも同じような症状が出たのを思い出した.

たしかあのときは微熱と咳が3ヶ月間ほど続き,いまと同じようにずいぶんと苦しんでいたのだが,そのときは運の悪いことにちょうど下版と初校出しが重なっており,具合が悪いのに休むどころか休日出勤なんぞをしていたせいで体調がよくなるわけもなく,ますます様態が悪化していたのである.

それでも精神力で辛うじて仕事をこなしてはいたのだが,そのうち会社のみんなに「それって結核なんじゃないの?」と囁かれるようになり,私がゴホゴホいいながら会社に行くとなにやらみんなでイヤな顔をするようになっていた.

そんなある日,なかば強引に水道橋にある出版健保の診療所に連行され,精密検査を徹底的に受けさせられる羽目になったのである(なんか変な日本語だ).

血液検査にはじまって尿検査,さらに血圧から心電図まで,その診療所にある,ありとあらゆる検査用具を使って検査され,そして結核を疑われていた私は肺のレントゲンを念入りに時間をかけて何枚も撮られたのである.

で,最後にそこの院長というか出版健保の診療所の責任者の先生(たしかけっこう有名な人だったと思う)に問診を受けたのだが,


 先生「どうされました?」

 「はぁ,なんだか調子が悪くって……」

 先生「え〜,お電話でのお話だと微熱と咳が止まらないとか?」

 「……ええ,かれこれ2ヶ月間くらい微熱と咳が出続けてるんです」

 先生「ふぅむ,ほかになにか変わった症状はありますか?」

 「……いえ.ただふだん熱なんか出ないものですから,微熱のせいで朝から晩まで頭が痛くってしょうがないんです」

 先生「ああ,そうですか.お電話では結核ではないかとおっしゃっておられましたが……?」

 「……はあ,会社ではみんなその症状は結核だっていってますね」

 先生「以前に結核にかかったことはありますか?」

 「……いえ,すこぶる健康なものですから結核どころか大きな病気もしたことはないです」

 先生「そうですか.では,ちょっと服の前をはだけていただけますか」

 「……はあ」

 先生「(おもむろに聴診器を取り出し)息を吸って〜,吐いて〜」

 「スー,ハー」

 先生「はい,もういいですよ.……え〜,totsugekiさん」

 「はい」

 先生「ええとですね,まずこちらがあなたの肺のレントゲン写真なんですけど(とバシャッとレントゲンを壁のライトテーブルのようなものにはさむ)」

 「はあ」

 先生「totsugekiさんもご存じかも知れませんが,結核の場合ですと肺に陰ができてレントゲンに写るんですよ」

 「はあ」

 先生「で,この部分をみていただけますか?」

 「はあ」

 先生「肺の末端の細かいところまできれいに写っているでしょう?」

 「……ええ,ずいぶんとはっきり写ってますね」

 先生「ええ,全体的にとても鮮明です.totsugekiさんはタバコは吸われませんね?」

 「はあ,いままでに吸った覚えがないです」

 先生「そうですか.それはすばらしいですね.実をいうと肺の末端のこんなところまできれいに写る人っていうのはそんなにいないんですよ」

 「はあ,そうなんですか」

 先生「で,ですね,いまtotsugekiさんの肺の音を聞かせてもらったんですけれど,なんら異常はみつかりませんでしたし,精密検査の結果もとても良好でした」

 「はあ……ということは……?」

 先生「つまり,totsugekiさんの体は健康そのものということです」

 「……ああ,そうですか.なんとなく自分でもそんな気がしてました」

 先生「本日の検査結果をみたかぎりですと,すこぶる健康体ですね.まあ,totsugekiさんはまだお若いですからね」

 「……はあ,それだけが売りなもんですから」

 先生「ですから,微熱と咳が出るということですが,検査の結果からは特に異常はみられませんので,私どものほうはなにも処置はいたしません」

 「……はあ」

 先生「あなたはまちがいなく健康です.自分の体と健康に自信をもってください」

 「……そうですか」

 先生「ですので,自信をもって仕事に励んでいただければなにも問題ありません.会社のほうには私のほうから連絡をしておきますね」

 「……はあ,そうですか.本日はどうもありがとうございました」


とまるで冗談のようなやり取りをしたうえで先生のお墨付きをもらい,とぼとぼと会社への帰路に着いたのであった.


……当初の予定ではこんなことを書くつもりではなかったのだが,なにやらムダに長くなってしまったので続きは「病は気から その2」に続く