[組版]「ちょっと」とか「もう少し」とかいう単位はこの世の中には存在しないにいただいたコメントにご返事


Christinaさま

こんにちは。

いただいたコメントにご返事を書いていたら、ちょっぴり長くなってしまったのでエントリーに追加させていただきました。

# Christina 『こんにちは。あの、うちの編集歴ン十年のシュートメの指導によりますと、逆に何Qとか何ptとか書き込んで指示すると組版する人がそれに捕らわれてしまうので、「もうちょっと大きく」などと書けということなのですが・・・私は校正のスクールで、きっちりQ数表とポイント表とで図って書くよう教わったのに、現場じゃ違うのねと思ってそのとおりにしていたんですが・・・ち、違うんでしょうか・・・』


ええとですね、誠に申しあげにくいのですが、もし出版社から「もうちょっと大きく」などという指示が書いてある校正紙が戻ってきたら、私ならまず「あ、こりゃ素人だから、気をつけて作業しよう」と思いますね。

しかも、もしその指示をしているのが素人ではなかったとしても、そんな赤字が一個所でも入っていただけで作業をする側はもう相手は素人だと決めつけてしまって、その人が指示した赤字を無視して自分(オペレータ)がよかれと思った修正をしてしまう可能性もあります。

逆に何Qとか何ptとか書き込んで指示すると組版する人がそれに捕らわれてしまうので、「もうちょっと大きく」などと書けということなのですが


捕らわれてしまうというのが、なにに捕らわれてしまうのかがよくわからないのですが、結論からいわせていただくと「もうちょっと大きく」などという指示は相対的な指示であり、それを指示した人間にとっての「もうちょっと」は1級だという前提で指定をしているのかもしれませんが、作業をする人間にとってはそれは1ptだったり、1ミリだったり、1パイカだったりするわけで、そんな曖昧な指示は指示とはいいません。指示や指定というのは誰にとっても絶対的なものでなくてはならないのです。

すなわち絶対的な指示や指定というのは誰がみてもわかるように、共通の単位を使って数値で表されており、さらにそれらは朱書きで書かれていて、なおかつ誰が作業をしてもそのとおりにならなくてはいけないものを指示というのです。

私は校正のスクールで、きっちりQ数表とポイント表とで図って書くよう教わったのに、現場じゃ違うのねと思ってそのとおりにしていたんですが


いえ、スクールが正しいです。というか、編集歴ン十年のシュートメさまのご指導がまちがっておられます。

そのようなことをいうと「これまでこれでちゃんと通ってきたのだから、これからもこれでいいのよ!!」なんていわれそうですが、それはその相対的な指示がたまたまそのようになっていたというだけで、作業をする人間が変わったり、印刷所が変わったりすれば、すぐにそうならなくなってしまうようなおそろしく曖昧な指示なわけで、たとえばよその出版社や編集プロダクションに行って「もうちょっと大きく」なんて指示を校正紙に書いているのをみつかったりなんかしたら……ああ、考えるだけでもおそろしいですね。

それとこれはよけいな話になってしまいますが、私が編集プロダクションで編集を教わっていたときに私に編集のなんたるかを教えてくれた方が

印刷所っていうのは適当な指示をすると必ず手を抜いてくるから、指示や指定というのは時間をかけてきっちりとスキがないようにしなければならない。これはつまり組版をしているオペレータになめられるような指示は絶対にしてはいけないってことだ。


といっていた言葉をいまでも忘れることができません。

これは自分が印刷所で組版をするようになってから「ああ、本当にそのとおりだな」と強く実感しておりまして、このエントリの冒頭に書いたように「あ、こりゃ素人だから、気をつけて作業しよう」などと一回でも思われてしまうと、「ああ、こいつの仕事はやっつけでいいや」とか「こいつの仕事はどうやって手を抜こうかな」などと本当になめられっぱなしになってしまいますので、これからはシュートメさまがどのように宣おうが、そのような指示は絶対にされないほうがよろしいかと思います。

あ、それと印刷所のオペレータがスキあらば手を抜こうとするのはちゃんとした(?)理由があるのですが、それはまた機会をあらためてエントリーさせていただきたいと思います。