[組版]「ちょっと」とか「もう少し」とかいう単位はこの世の中には存在しない


あたりまえといえばあたりまえなのだけれども、意外とお客さまはあいまいな指示をしてくれるのである。

そして私が「タイトルをもうちょっと大きく」といった指示を鉛筆(!)で殴り書き(!)されている校正紙を持って返ってきた営業サマに


 「この“ちょっと”っていうのはどのくらいの大きさなんですか?」


なんて尋ねたりすると、営業サマは


 「ちょっとっていうのはちょっとに決まってるじゃん」


みたいなことをおっしゃるので、


 「じゃあ、何Q大きくすればいいんですか?」


と尋ねると


 「だから、ちょっとだよ」


とまだ宣うので、


 「じゃあ、何ミリ大きくすればいいんですか?」


と尋ねると


 「う〜ん。じゃあ、いまより1pt大きくして」


などと、私が尋ねたQでもミリでもない単位でお答えになられるので、私は無言でその文字を1pt大きくし、校正紙を出力してやはり無言で営業サマに渡すのである。

するとその営業サマは、そのあいまいな指示を出されるお客さまのところにその校正紙を持っていくわけだが、そうすると今度は必ずといっていいほど「大きさはこれでいいから今度はもう少しこの文字を太くしてくれ」などとまたあいまいな指示をいわれて帰ってくるのである。

いや、だからさあ


 「もうちょっと小さく」

 「もうちょっと大きく」

 「ちょっと(色を)薄く」

 「ちょっと(色を)濃く」

 「少し小さく」

 「少し大きく」


とかいう単位はこの世の中には存在しないんですよ。

それにドキュメントにはりこんである画像に対して「写真を少し大きく」とかっていう指示を出されても、写真(画像ボックス)自体を少し大きくするのか、縮小率(拡大率)を少し大きくするのかが判断できないっちゅーの。

だもんで、自称・玄人編集者のおっさんから返ってくる校正紙にはそんな指示ばかりしか書いていないので、私がたまりかねて「玄人編集者はそんなあいまいな指示は絶対にしないと思いますよ」なんてことをやんわりと指摘したりすると、そのおっさんは「私はこの道20年のプロだ!!」なんてマジギレして、当社の社長にねじこんだりするもんだから困ったもんである。

しかも、社長もそれを真に受けて「お客さまには失礼のないように言葉遣いには気をつけなさい!!」なんて顔を真っ赤にして怒ったりするもんだから、もう言い訳をする気にもなれず、そのうえ「私の顔に泥を塗るつもりか〜!!」などといわれた日にゃあ、おかしいのをとおりこして哀れにすらなってくる。

ま、別に誰が悪いとはいわないけど、少なくとも世の中にはそんな単位は存在しないということで、必然でも、偶然でもこれを読まれた方だけでも仕事をするうえでそのような単位はくれぐれも使われないよう、ご理解のほどよろしくお願いいたします。