[会社]自分がやったほうが早いからといって仕事をしすぎてはいけない


……いや、自分ではわかっていたつもりだったのだが、実際にはわかっていなかったらしい。

というのも、この会社(というかフロア)ではページが多い組版や複雑な組版というのはほとんど私が担当しており、私の手が回らないときにはまわりのオペレータに表組やトレスの指示をしておき、彼らが作業を進めている間に私はほかの作業をすすめ、材料が揃った時点で私が組版をして体裁やページが通っているかなどの確認をし、最終的に私が下版をするというスタイルが定着していたのである。

なんで私がそういう組版ばかりを担当していたかというと、たんに「作業が早いから」とか「まちがいがないから」とかいう、あまりたいしたことのない理由からなのだが(それが大事だっつー話もあるが)、だいたいこんなしょぼい印刷所に持ち込まれるような組版というのはあまり期限がなくページが多いわりにスケジュールがタイトな場合が多いので、相対的に作業が早い人間がそういう組版ばかりを担当するようになるのは必然といえば必然なんである。

それにそもそもこの会社の場合、チームで作業にあたるとかいう概念がなく、すべて個人の力量のみで作業をこなしているので、仕事が早い人間はなにをしても早く、仕事の遅い人間はなにをしても遅いという判断しかされないので(すでにこのへんが救いようのないところなのだが)、仕事が早くてなおかつミスの少ない人間に仕事が集中するというのも、こういう体制をとっているかぎり当然といえば当然なんである。

だもんだから、私が再三に渡って「いまのように個人の力量だけに頼った体制ではいずれ破綻がきますよ。これからは体制を変えていかないとダメですよ」と進言したにもかかわらず、「君のいっていることはよくわかってはいるけれども、それでも体制を変える気はない」との返事だったので、「そうですか。では、私は体制が変わらないのであればここで仕事を続けていくつもりはありません」といったら、なぜか体調不良で会社を退職することになったのだが、まあそんなことはどうでもいいことだ。

話がそれたが、私がなんで「自分がやったほうが早いからといって仕事をしすぎてはいけない」と思ったのかというと、どうも私にやれというとなにか文句をいわれそうだと思ったらしく、ドブチョーとバカチョーがそれまで私が担当していた大量ページの組版をいきなりそんな大量ページの組版をやったこともないオペレータ(上のフロアの女性オペレータ)にこっそりやらせようとしていたのである。

そしてその組版をやらせようとしているオペレータをはじめ、バカチョーやらドブチョーやらが全員集まって小1時間ほどみんなで頭をつきあわせてなにやら打ち合わせをしたうえで、「じゃあ、なにかわからないことがあったらすぐに電話をします」といって上の階に上がっていったのだが、5分もしないうちに電話が鳴り、ドブチョーがああだこうだいいながら「そういう場合にはそうしてください」とかいって電話を切ったのだが、またすぐに電話が鳴り、またドブチョーが「そういう場合にはこうして」などといいながら、やれやれといったような表情で電話を切ったのだが、そのあとはちょっと作業をするたびに「あれはどうしますか?」「これはどうしますか?」と確認の電話が鳴りっぱなしで、オペレータが上であたふたしている様子が目に見えるようで、最初は「あ〜あ、あんな組版を急にやらされちゃってかわいそうに」と思っていたのだが、そのうちにふとこれでよかったのではないかと思うようになった。

というのも、私がやればそんなに苦労をすることもなく簡単にできてしまうかもしれないが、だからといっていつまでも私がやっていると誰の経験にもならないし、ましてやその組版ができたからといって私のスキルが伸びるわけでもなく、ただたんに早くできるというだけで、だ〜れもな〜んにも得る物がないのであるな。そうなると彼女がやることによって多少の苦労はあるかも知れないが、そのほうが彼女の経験になるわけだし、そのほうがよかったのだと思うようになったのである。

ただ、だからといってすべてが万事OKというわけではなく、メリットがあれば当然デメリットも存在するわけで、彼女がやることによって彼女の経験にはなるだろうが、いかんせんクオリティという面でいえばかなりデインジャラスな状態になると予想されるのだが、えてしてこんなしょぼい印刷所に仕事を頼むところというのは同じくらいしょぼい会社ばかりなので、たぶんそんなことにはちっとも気がつかないとは思うけれども、万が一印刷物になってからクレームをねじ込まれたりするととんでもなくやばいことになったりするのはまちがいないのだが、まあそんなことは私が気にすることではないのでこの際不問としよう。

それにしても、その昔OT隊長に「自分でやったほうが早いからといって仕事をやってはいけない」とか「そういう人間が上にいると下の人間が伸びないからそういう人間は罪だ」なんて口を酸っぱくしていわれたりもしたが(2005.11.09追記:これはたんに私がそのときにOT隊長の言葉をそういうふうにとらえただけで、OT隊長にはそんなことをいうつもりではなかったということを追記しておきます)、そんな事例というのはビジネス書に出てくるくらいでまったくの人ごとだと思っていたのだが、まさか自分がそんな羽目になるとは驚きである。

ただ、私の場合はそんな小難しいことを考える頭がなく、ひたすら仕事をしていたらこうなってしまったわけで、別に悪気があったわけではないのだが、結果としてみんなのスキルアップの機会を奪っていたのかもしれないと思うと、ちと心が痛んだりもする。

でもまあ、そういう会社なんだからしゃあないやねえとは思いつつも、ということは会社側としては私をチーフなり、課長なりにして、私が作業をしなくてすむようにしてくれればいいだけの話だと思うのだが、それについて言及すると「君は入社してまだ日が浅いから」とか「君は修行が足りない」みたいなことをいわれるのだが、私にいわせれば


 オマエラのほうがよっぽど修行が足りないんじゃないの?


という感じなのだが、それよりも


 そんなもんはあとからついてくるんだっつーの、このボケ!!


とやつらを叱りつけてやりたい気持ちでいっぱいである。

ま、それが簡単にできるのであればもっといい会社になっているはずだから、このへんがこの会社の限界なのだろう。


あ、それとOT隊長で思い出したのだが、上記の「自分でやったほうが早いからといって仕事をやってはいけない」とおっしゃっていたのはまちがいないのだが、それと前後して「幹部とよばれるような人間がなにもしないのは罪だ」というようなこともおっしゃっていたような気がするのだが、そうなるとどのへんまでやればちょうどよいのだろうか? などと思ったりもする。

やはり「なにごともほどほど」ってことなのだろうか。

う〜む、なかなか難しいものですのう。