[会社]常務が営業へ行くことになった


そうな。

当社の営業部は私たちがいるビルとは別のビルにあり、そこにはまずい人ばかりがいるこの会社のなかでもさらにまずい人たちが掃きだまっているのである。

なんで常務がそんなところに行くことになったのかは朝礼に出ていない私には不明なのだが、前々から営業部は社長や幹部からさんざんダメ出しをされており、私がいる3階とは違う意味での改革が望まれていたのである。

ということは、たぶん営業部を少しでも変えようということで常務は営業部へ赴くのだと思うが、


 「俺が3階を変えてやる!!」


などと息巻いていたわりにはなにも変えることができなかったような人間を行かせてどうするのだ? と疑問でならないのだが、それに輪を掛けるように常務が「いやあ〜、営業部の面倒をみないといけないから仕事が増えちゃうな〜」などといいながら、なぜか嬉しそうに荷物をまとめていたりするのをみると、


 なんだかずいぶんと情けない都落ちですのう


と思わずにはいられないのだが、それをみていたK主任が


 「けっ、情けねえ」


と私だけに聞こえるくらいの声で吐き捨てるようにいってきたのである。


 「ん〜? まあ、あんなもんじゃないの?」

 K「ま〜ね。別に期待なんかしてなかったけどさ」

 「いやあ、それはあのおっさんに期待するほうが悪いよ」

 K「まあ、そうだね」

 「でも、あのおっさんどのくらいいたんだっけ?」

 K「さあ?」

 「あのおっさん、なんかした?」

 K「ん〜? なんにもしてないんじゃない?」

 「なにしに来たんだろうね」

 K「さあ?」

 「ここに来るのが決まったときには“あいつらを飛ばすのは簡単だ!!”みたいなこといってたよね」

 K「ああ、そういえばいってたね」

 「でも、出ていくのは自分のほうが早いんだ」

 K「まあ、この会社にいる人間はみんなあんなもんだよ」

 「……まあ、そうだね」

 K「別に期待なんかしてないからいいけどさ〜」


まあ、来てもなにもできないだろうというのはあらかたの予想どおりなので別に驚きもしないのだが、あんまりにも予想どおりなのでそのことに驚いているというのが本音である。

そしてそんな人間が会社で2番目にエライというのだから、いかにこの会社がすばらしいかがわかるというものである。

でも、もし私が常務と立場が逆であんなでかいことをいっておきながらなにもできなかったら、恥ずかしくて会社に来られないと思うのだけれども、そんなことをまったく気にするふうでもなく会社に来ているというのは、見習ったほうがいいのか悪いのかがよくわからん。

それにしても人間、誰でも最低ひとつはいいところがあるというが、もう怒る気もしないくらいどうでもいいというのはある意味、それがその人のいいところなのかもしれませんのう。でも、私はそんな人間には絶対になりたくはないな。