[会社]人に物を教えるのは難しい
いや、そんなことは重々わかってはいたのだけれども。
わかってはいたのだけれども、わざわざそのことを書きたくなることだってあるじゃん?
え? そんなことはない?
でも、そんな意見はまったく気にせず、さっそくいくぞ。
……それはつい先日のことじゃったあ〜。
新人「あっ、あのっ、totsugekiさん、いまよろしいですか?」
私「ん〜?」
新人「じっ、自分、ちょっとわからないところがあるんですけど」
私「ああ、どうぞ」
新人「えっ、え〜とですね、こっ、こっ、この前回の特集の図なんですけど」
私「うん」
新人「もっ、文字が12Qになってるじゃないですか」
私「ああ、そうだね」
新人「とっ、ということは今回の特集の図も12Qでいいってことですよね?」
私「……いや、前にもいったけど、お客さんの指定は“図や表の文字の大きさは本文の大きさよりも1級下げる”っていう指定だから別に12Qって決まっているわけじゃないよ」
新人「でっ、でも前回の大きさは12Qですよね?」
私「まあ、そうだね」
新人「とっ、ということは12Qで作ればいいってことですよね?」
私「……いや、それはたまたま12Qになっているだけだと思うよ。だってそこの本文の大きさは14.5Qでしょ?」
新人「はっ、はい、14.5Qです」
私「ということは、本当なら図の文字の大きさは13.5Qじゃないとダメじゃない?」
新人「はっ、はい、そうですね」
私「でも、前回の文字の大きさは12Qになってるんでしょ?」
新人「はっ、はい」
私「だから、それは13.5Qの大きさだと文字が入らなかったから、たまたま12Qなんだよ」
新人「わっ、わかりました。じゃあ13.5Qにすればいいんですね?」
私「……まあ、特集は基本的にはそうだね」
新人「よしっ。ということは図は全部13.5Qで作る、と」
私「……いや、だからって全部が全部13.5Qってわけじゃないよ」
新人「え? いま13.5Qって……」
私「いや、ボクがいったのはそういう意味じゃなくって……」
新人「でも、いま13.5Qっていいましたよね?」
私「それは特集の本文が14.5Qだから、その場合には図の文字の大きさは13.5Qってこと。図や表は本文の大きさよりも1級下げなくちゃいけないからさ」
新人「あ!! でっ、でも前回の文字の大きさは12Qでしたよ?」
私「だ〜か〜ら〜、図や表は基本的に本文の大きさよりも1級下げるんだけれども、スペースの問題とかでその大きさで入らないこともあるじゃん?」
新人「はっ、はい」
私「だから、図や表の文字の大きさは本文の大きさよりも1級小さくないといけないんだけれども、その大きさで入らない場合にはそれよりも小さくしてもいいってこと」
新人「……ということは文字はいくらでも小さくしてもいいってことですね?」
私「いや、あんまり小さくしちゃうと今度は可読性の問題もあるから小さくしすぎてもダメ。読める範囲内で小さくしないと」
新人「……ということは今回の特集はどのくらいの文字の大きさにすればいいんですか?」
私「……」
実はこの質問を聞かれるのはこれで3回目なんである。そしてそのたびに同じやり取りを繰り返しているのだが、2〜3日するとまた同じことを聞いてくるのだ。
これってどう考えても教え方がうんぬんとかいう問題ではないと思うのだが、彼女が実際に作業をする際に図や表の文字の大きさを思い出せないということはやっぱり教え方が悪いのだろうなあ。
というか、彼女に
「ここの図の文字の大きさはどのくらいにすればいいですか?」
と聞かれたときに、私が
「ああ、そこは13.5Qだよ」
と答えるのはとっても簡単なのである。それ以外のテクニカルな質問にも「こういう場合はこう」、「ああいう場合はああ」といったふうに教えるのもとっても簡単だ。
だが、そのほうが簡単だからといって私が安易に答えばかりを教えてばかりいると、彼女は答えばかりを求めるようになり、いずれその答えを導き出すための方法を考えることをしなくなってしまうだろう。
つまり、ここで私が重要だと思っているのは、質問に対する答えなんかではなく、その答えを導き出すための方法を考えることや、ある疑問や問題を解決するために自分の知識をどれだけ応用できるかということなんである。
だから私は自分がいままでに培ってきた組版のテクニックではなく、いままで自分なりに構築した組版に対する考え方を彼女に教えているつもりなのだが、これがなかなか伝わらない。
そして彼女は私に質問に対する答えだけを求めているのに対し、私はなんでそうなるのかということばかりを話すので、それを必死で理解しようとしてきっとものすごい混乱しているのだろうなあ。
でもって、同じことを3回も聞いてくるというわけだ。
でも、いくら混乱しているとはいえ、同じことを3回も聞いてくるというのは天然という可能性もあるけれども、ようは「他人に自分の知っている答えを教えるのはとても簡単なのだけれども、その答えを導き出す方法の考え方を教えるのはとても難しい」ということなんですなあ……。
いやまあ、これも自分の勉強のうち、マネージャへの第一歩だと思えば楽しい。かな?