[会社]E代に酒を飲みに誘われる


まあ、同じ月刊誌を担当しているってことは帰る時間もほとんど一緒なわけだし、それに互いにお酒が好きなことも知っているので、酒を飲みに誘おうと思えばいくらでも誘えるのだが、なんだか一緒に酒を飲む気がしなかったので、あえて私のほうからは声はかけていなかったのである。

で、連休明けで出社してボケーッとしながらもバリバリと仕事をこなし(?)、30分ほど残業をして(本当はblogを書いていた)帰り支度をしていたら、同じように帰り支度をしていたE代に


 「あの〜、totsugekiさん、今日お時間ありますか?」


と急に声をかけられたのである。これはきっと昨日、K主任からきたメールの件だなとすぐにピンときたのだが、私はわざと気乗りがしなさそうに


 「……はあ、なにか?」


と答えると、


 E代「ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど〜」

 「……はあ、特に予定はありませんけど」

 E代「じゃあ、どこかお店に行きませんか?」

 「……はあ」

 E代「私が知っているお店でいいですか?」

 「はあ、どこでもいいですけど……」

 E代「そうよかった!! じゃあ、行きましょう」

 「はあ……」


なぜかは知らんがE代はウキウキと張り切っているご様子。きっとなんでもこうやって自分が仕切ったりするのが好きなんだろうなあなどと思いつつ、途中あれこれ私のことを詮索されたりしたのだが、別にウソをつく必要もなかったので、酒を飲みに誘われるのはやぶさかではないけれども、けっこう人見知りをすることや、女性にこちらから話しかけたり、コミュニケーションを取るのが苦手なこと、特に自分より年下の女性が苦手なことなどを話す。


 E代「え〜!? 若い子のほうがいいじゃな〜い」

 「いや、ボクはあんまり……」

 E代「じゃあ、年上のほうがいいんだ?」

 「まあ、どちらかといえば……」

 E代「でも、会社に若い子いっぱいいるじゃない。ちょっとは話してあげたら?」

 「いや、あんまり興味ないですね。めんどくさいし……」

 E代「でも、年上っていっても私なんかもうおばさんだからダメね」

 「はあ……」

 E代「あ〜、私がもうちょっと若かったからなあ〜」


おいおい、なんの話だ?

なんだかわからないが急にお姉さんモード全開のE代のあとについて行きつけの店だというガード下の居酒屋に到着するとE代は迷うことなく2階に上がり、カウンターに陣取った(1階は立ち飲みで、2階はテーブルとカウンター席がある)。


 E代「好き嫌いとかあります?」

 「いえ、特にないです」

 E代「私も好き嫌いはないので好きなものを頼んでください」

 「はあ」

 E代「で、今日わざわざ来てもらってちょっとお聞きしたい話っていうのは、totsugekiさんが会社を辞めるっていうお話なんですけど……」

 「はあ」

 E代「辞めるんですか?」

 「はあ」

 E代「決定ですか?」

 「はあ」

 E代「いつごろ?」

 「いや、もうちょっとはいますけど……」

 E代「ということは10月15日ですか?」

 「はあ、たぶん……」

 E代「いや実は昨日(9月6日)totsugekiさんがお休みした日に、私とH川君(隣人改め)とKさん(K主任)だけで部長と課長に昼食に誘われたんですよ」

 「はあ」

 E代「そこで今度totsugeki君が辞めちゃうから、今度入ってくる仕事と年末の仕事どうしよう〜って相談をされたんです」

 「はあ」

 E代「……totsugekiさんはH川君とかKさんにちゃんと会社を辞めるっていいました?」

 「いえ、なにも」

 E代「なのにあの姉妹が先走っていっちゃったんですよ。おかしいでしょう?」

 「あいつら本当にアホですね」

 E代「それに仕事どうしよう〜っていったって、どうしようもないじゃないですか?」

 「はあ」

 E代「だから、年末の仕事はとにかく4階の人たちと協力してやろうって話にしたんですよ」

 「まあ、いまの体制じゃそれしかないですよね」

 E代「私はね、別に会社を辞めたければ辞めればいいと思うんです」

 「はあ」

 E代「だって、辞めるとか辞めないとか本人の自由じゃないですか?」

 「まあ、そりゃそうですね」

 E代「でも、常務とか総務部長とかけっこう強引に引き留められませんでした?」

 「はあ、一応は引き留められましたよ」

 E代「ああ、やっぱり。あの会社ちょっとおかしいんですよね。私は辞めたいっていう人間をそんなに無理して引き留めてもしょうがないと思うんです」

 「ボクもそう思いますけど、あの会社がおかしいのはずっと前からだから仕方がないんじゃないですか?」

 E代「実は私も3階に来てすぐに辞めるっていったら引き留められちゃったんですけど、本当はいつ辞めてもいいって思ってるんですよ……」

とかなんとか。

なんか自分がこの会社にいるのは自分の本意ではないとか、自分はやれることを最大限やっているとか、やけに言い訳めいたE代の話を聞きつつ、結局この話がしたかっただけなのか? と勘ぐってみたりする。

いや、あなたが引き留められたのは知ってますよ。3階に来てすぐに「ここの仕事についていけないから辞める」って訴えたあなたのことを総務部長(当時は総務課長)が引き留めたんですよね。


 ……まあ、E代さんは(この会社のなかでは)有能な人材だからそれも当然じゃないですか?


といって慰めてあげようかとも思ったが、変な勘違いをされたら困るので、あえてなにもいわずに黙っていた。

で、そのあとは仕事の在り方や仕事に臨む姿勢などを話したりつつ、急にいままで旅行に行ったところで一番よかったところはどこですか? とか、そういえば猫ちゃんは元気ですか? とか、私の周りには猫好きな人が多くて4階のK沢さんのところの猫の名前はシロとクロっていうんです、わかりやすいでしょう? とかなんだかよくわからない話ばかりになり、話がかみ合っているのかいないのかよくわからないまま、時間だけが過ぎていったのである。


 E代「あ、もうこんな時間。じゃあもう一杯だけ飲んで帰りましょう」

 「ああ、そうですね」

 E代「それにあんまり遅くなっちゃうと猫ちゃんがかわいそうだし」

 「いや、いまは実家に預けてるんですよ」

 E代「あら、そうなの」

 「実家は涼しいから夏の間だけ避暑させてるんですよ」

 E代「へえ〜、それじゃ寂しいでしょう」

 「そうでもないですよ」


 ……それから1時間後。


 E代「あら、もうこんな時間。じゃあ本当に最後にもう一杯だけ飲んで帰りましょう」

 「……はあ(え? まだ飲むの?)」

 E代「それにあんまり遅くなっちゃうと猫ちゃんがお腹をすかせちゃうから早く帰ってあげないとね」

 「……」


 だから猫はいないっていってんじゃん。酔っぱらってんのか この野郎!!


……失礼、女性でした。

で、本当に最後の一杯を飲んで店を出たのが23時。店に入ったのは19時だったからずいぶん飲んじゃったなあなどと思いながらお勘定をしようとすると、すばやく私を制して「私のほうが年上だから私が払うわ!!」とあいかわらずお姉さんモード全開だったので素直にゴチになり、店を出ると「私はこっちだから」とごちそうになったあいさつもそこそこにすぐに別れる。

う〜ん、もうちょっとちゃんと話し合えば分かりあえたりするのかもしれないが、そこまでする必要があるのかないのか……などとごちそうになった手前、ちょっぴり考えてもみたりもするが、いまさらあれこれ考えてみても詮無きことだ。

まあいいや。

それにしてもドブチョーとオバカチョーは本当にバカだな。私に辞められて困るのならもうちょっとマシな交渉の仕方があるだろうになあ。「誠に申し訳ないのだけれども、もうちょっといてくれ」っていわれれば、私も鬼じゃないんだからちょっとくらいは考えてあげてもいいのに。

……5秒くらいならね(ニヤリ)。

でも、今日はいいことを聞いちゃったなあ。

明日からどういう作戦でいこうか楽しみである。