[会社]ややこしい話を簡単にする


私の後ろに座っているE代さん(名字で呼ぶとなぜか機嫌を損ねる)は最近、やけに私に気を遣ってくるのである。


「totsugekiさん、お忙しいところ申し訳ありませんが、これやってもらえます?」

「totsugekiさん、本当に申し訳ないのですけれども、ここだけちょっと修正してもらえますか?」


などなど……。

いままでの馬の骨扱いから比べると格段の差なのだが、あまりにも気を遣ってくるので逆に不気味である。

だが、それも当然といえば当然かもしれない。

なにしろE代さんは先月号の月刊誌で100時間もの作業時間を叩きだしてしまったからである。

いくら複雑な組版とはいえ、トータルで80ページほどの雑誌(判型:B5)で100時間の作業時間というのは高橋名人もびっくりのハイスコアである。

なもんで、仕方なく途中から私がいやいや率先して組版を担当し、E代さんにはそれ以外の作業(原稿の入稿管理や向こうの担当者とのやり取り、図版の作成)を担当してもらうことにしたのだが、そうしたらいままでぐったりしていたのが急に元気になってしまったのである。

先月はニコリともせずに無表情で作業をしていたのに、いまはもう毎日が楽しくて仕方がないといった感じで、やけにイキイキと作業をしている。

……そんなにイヤだったのか。組版

かくいう私もデザインには時間がかかるわりにたいしたものができないのだが、E代さんはどんな作業にも同じように時間はかかるものの、デザインに関してはかなりいいものを作るので、やっぱり人間一つはいいところはあるのだなと思ったりもする。

まあ、組版に時間がかかるということであれば、組版が得意な人間が組版をすればよいだけの話であって、それほど難しい話でもないのだが、いかんせん人を見る目がない人間が上にいて、やたらと口を出してきたりすると、ちょっと整理をしてあげれば簡単に終わる話もややここしくなってしまうのであるな。

なんでこうもっと人を見る目を養っておかないのかねえ、このおバカさんたちは。と思ったりもするのだが、こればっかりはどうにもならんのかなあ。それともおバカさんだから、そんなことは思いもよらないのか?

だいたい、こいつは仕事ができるとかできないとか、なにが得意でなにが弱いのかなんていうのはちょっとみればわかることであって、そんなことも把握できないような管理職はいらんのである。そいつが自分の味方になるのかならないのか、はたまた敵なのか中立なのかとか、こいつを雇っていたら本当にこの会社の役に立つのかとかっていうのをはかりかねているっつーのならまだ話はわかるけどもさ。

ま、なんにせよ、難しい話を難しいままにしておいては解決するものも解決しないのである。難しい話は簡単に、簡単な話はさらに簡単にして、誰がみてもわかるようにしておけば解決もしやすいのである。

すなわちそれが物事に筋道を立てるということであり、段取りというものだが、段取りを組むというのは一見誰にでもできそうだが、意外に簡単ではないのである。段取りが悪いと1+1が2にもならず下手するとマイナスになってしまったりするし、逆に段取りさえよければ1+1が2にも3にも4にもなるのであるな。

でも、いくら段取りがよくっても計算できる人間が1人だけじゃ、足し算はおろか引き算すらできないわけだからまったく計算にならんわけだけれども、優秀な人間は常人の2倍とか3倍仕事ができるからそういう計算が成り立つのかなと思ったりもする。

しかし、私はそういう不毛な計算は絶対にしたくないと思っているのだが、いずれは否でも応でもしなくてはならなくなるのかなあ……?