営業というのは本当に会社のハナなのか?


私が勤めている印刷所には営業部があり、全部で7人ほどの営業部員がいる。規模の小さな印刷所だと、社長やオペレータが営業を兼任していたり、または営業部員がいても1人しかいなかったりするので、7人の営業部員がいるというのは、印刷所のなかではたいしたものである*1

印刷所の営業というのは、基本的にはルートを回って原稿をもらってきたり、校正を持って印刷所と顧客先のやり取りをするのが主な仕事で、飛び込みで新規開拓をするというようなことはあまりしないことが多い*2。顧客から声をかけられれば「はい、ありがとうございます」といって仕事を受けるが、自分からは「なにかいい話ないですか?」とかいって机の間をうろうろするばかりで、決して自ら提案をすることはないというのが従来の印刷所の営業職の在り方である。

ごたぶんにもれず、当社の営業部員も昔ながらの受注体質が抜けないようで、顧客からいわれるままに仕事を受け、なにも考えずにデータと原稿をもらってきては鼻高々で「仕事もらってきました〜」と現場に持ち込んでくるような人間ばかりである。

で、仕事が入ったとなると、まずはデータのあるなしを確認しなくてはならないのだが、いまどきはPCを所有していない会社や個人のほうがめずらしいのと、口を酸っぱくして営業に「データをもらってきてくれ」といっているので、最近ではデータは添付されていることが多い。

しかし、当社の優秀な営業部員は逆にデータさえもらってくればなんでもいいと思っているらしく、いまだにこんな会話のやり取りをしたりする。

営業部長「あのさあ、これやってくんない?」

オペレータ「(全部で200枚ほどある出力紙をみながら)これをどうすればいいんですか?」

営業部長「そのまま版下にして印刷するから一回校正を出してほしいんだけど」

オペレータ「ああ、そうですか。ちなみにこれってなんでできているんですか?」

営業部長「え〜と、一太郎

オペレータ「これは?」

営業部長「え〜と、たしかWordっていってたな」

オペレータ「じゃあ、これは?」

営業部長Excel

オペレータ「……これってデータはあるんですか?」

営業部長「もらってきた」

オペレータ「……これってWindowsで作られてるんですよね?」

営業部長「たぶん、そうだと思うよ」

オペレータ「うちの環境で出力すると文字が崩れたり、行の送りが変わったりする可能性がありますけどいいんですか?」*3

営業部長「いいよ、いいよ。急ぎだから、とにかく出力しておいて」

オペレータ「はあ」

………校正を出して数日後。

営業部長「ちょっとちょっと」

オペレータ「どうしました?」

営業部長「この前出力してもらったやつだけどさ、文字がなくなってるところがいっぱいあるっていわれたんだけど」

オペレータ「………まあ、そうでしょうねえ。一応こっちでも確認はしたんですけど」

営業部長「そんなことじゃ困るよ〜〜。お客さんのところ持っていけないじゃん」

オペレータ「いや、だから送りが変わったりする可能性がありますよっていったじゃないですか」

営業部長「え〜!? そんなこといってたらいちいち全部確認しなくちゃならないじゃないか!!」

オペレータ「………」

営業部長、マジギレ

そもそも一太郎もWordもExcelもすべて印刷には不適切なアプリケーションばかりなのに、当社の営業部長はこのWindows DTP三種の神器*4以外のアプリケーションデータを持ち込んできたことがない(別にQuarkXPressでドキュメントを作成してくれとはいわないが、印刷をするのがわかっているのであればせめてIllustratorくらいは使ってほしいと思うのだが、これは顧客の都合もあるので仕方がない)。

それにしても営業部長がこんなことではほかの営業部員のレベルも知れるというものだ。

しかしながら、当社の社長や営業部長にいわせると「現場で実際の作業にかかわっている君たち(私たちのことね)でさえ日々勉強をしなくてはならないのだから、ふだん外回りをしていて忙しい営業部員がデジタルを覚えられるわけはない」という理屈になるらしいが、私にいわせれば「現場でDTPに携わっている私たちでさえ日々勉強していなくてはならないのだから、ご多忙な営業部員サマは寝る間を惜しんで勉強しないとならないのではないですか?」となるのだが、いまのところそういう考えは一切ないらしい。

しかし、社外的にも当社の営業部員はデジタルに弱いという事実があるのにもかかわらず、勉強をしているふうでもないし、あいもかわらず顧客に渡されたデータをなんの疑問も持たずに持ちこんでくるわけだが、なんで「覚えられるわけはない」が「知らなくてもいい」にすり替わってしまうのかがさっぱりわからん。

まあ、社長がいいっていっているのだから別にそんなこと覚えなくてもよいのかもしれないが、そんな人間が会社の顔として、会社を背負って社外に出ているのかと思うと「あんな人間を外に出して恥ずかしくないのか?」と私なら思うが、あれだけ堂々と外に出しているということはむしろ「当社の営業部員は全員優秀です」とでも思っているのだろう。

仕事が多忙だから覚えなくてもいいとか、勉強しなくてもいいとかいうことをいっていたら、仕事が多忙だからお客さんのところに行かなくてもいいとか、少しはまちがえてもいいとかいう理屈がまかり通ってしまうと思うのだが、ご多忙な営業部員サマは忙しくてそんなこともいっていられないのだろうなあ。

でも、メールの送り方がわからないのは決して忙しいからという理由ではないと思うのだが、きっと私なんかが思いつかないようなすばらしい理由があるのだろう(別に知りたくもないけど)。

*1:といっても、たかが知れているが

*2:規模にもよる

*3:フォントはもちろんのこと、マシンにインストールされているプリンタドライバによっても出力結果が変わることがあるそうな

*4:当社の場合