会社はなかなか変わらない


先日、総務課長*1から「大事な話があるので、今度の金曜日の歓送迎会*2の後に時間を取ってくれ」といわれたのである。

大事な話というとあいつらのことしか思い当たらないので、確実にその話なのだろうが、会社がどう出るかによってこちらの対応も変えなくてはならないので、どういう流れになるのか話だけは聞いておかねばなるまいと思い「ああ、はい。わかりました」と二つ返事で答えた。

──会社が本当にやる気なら、どんな手段を使ってでも排除するはずだけど、いままで変わらなかったってことはこれからも変わらない可能性のほうが高いってことだよな……。それに社長自ら「いくら売上が落ちても社員を辞めさせるようなことは絶対にしない」とかいっているくらいだし、排除なんかできるわけないよなあ──

などと考えながら、当日歓送迎会が終わった後になんとなく総務課長のあとをついていくと、なぜかラーメン屋に連れて行かれた。おっさんこんな夜遅くにラーメンなんか食わないほうがいいんじゃないの? と思っていると、総務課長はラーメン屋なのにもかかわらず日本酒を燗で頼んでいる。

まあこっちももったいつけられるのもなんなので、私が「単刀直入にお願いします」というと、総務課長は「え〜と、じゃあ単刀直入にいくけど、今度の4月に異動があってさあ。ちょっとした異動なんだけども……」といいかけているのを私はすばやく遮って「あの人たちはどうなるんですか?」と聞くと、総務課長は急にまじめな顔になって「彼女らを排除したいのはやまやまなんだけども、いままで会社に尽くしてきてくれたし、会社としては業績も認めているので排除はできないんだよね」と目を伏せながら寂しそうに答えた。

私はすかさず「じゃあ、これまでとなにも変わらないってことですね?」と問いかけると「いや詳しくはいえないけど、4月に異動があってそこで多少の動きがあるんだけども……」といいかけているのを私はまたもや遮って「新入社員が3日とか1週間で辞めていくのをおかしいと思わないんですか?」と強い口調で聞くと「そりゃ私だっておかしいと思うよ。おかしいと思うけれども……」とモゴモゴいっている。

私は「そうですか、じゃあ会社の意向はそういうことなんですね?」と畳みかけると、総務課長ははっきりと「……会社の意向はそういうことだね」と私がいった言葉を繰り返した。

──私は別に会社の対応にまったく期待はしていなかったし、排除できるわけがないとは思っていたが、だったら朝礼で「会社は変わらなくてならない」とか「これからは若い人の意見をどんどん採用していく」とか格好のいいことを口にするなと、変える気がないのなら「会社を変えるつもりはまったくありません」と正直にいえよと思わずにいられなかったのだ──

そんな思いもあり、総務課長の言葉にカチーンときた私は「ああ、そうですか。よ〜くわかりました。幹部のみなさんは会社をよくしたいとは少しも思っていないわけですね」と吐き捨てるようにいうと、それまで和やかだった総務課長が急に顔を真っ赤にして「そんなことはないぞ!! みんなよくしようと思ってる!! ただ会社っていうのはそんなにすぐには変わらないんだよ! 君がいうこともわかるけれども、会社っていうのはなかなか変えられないことくらいわかるだろう?」と肯定を求められた。

私は逆に「変えようと思わなきゃ、なにも変わらないんじゃないですか?」と聞き返すと、総務課長は「会社っていうのはなかなか変わらないけれども、変えようっていう力が働いているときはすぐに変わったりするんだよ。だからさあ、いまはそのときじゃないんだよ」とかなんとかかんとかいっていたが、そのときの私は怒り心頭でほとんど話を聞いてはいなかった。

もうそのあとは私がおかしいと思うことをいいたい放題いって、それに対して総務課長がひたすら弁明するだけの展開になってしまい、一人でまくしたてているのに疲れた私は「そろそろ帰ります。本日はお誘いいただきありがとうございました」とさっさか店を出てしまい、フラフラしながら外に出てきた総務課長に「どうもごちそうさまでした」といって、スタスタと駅に向かった。

が、時計をみると夜中の1時30分を回っており、電車があるはずもなく、無性に腹が立っていた私はとりあえず歩けるところまで歩くかと九段下方面に向かった。猛スピードで走っているタクシーを横目に靖国神社を抜け、半蔵門を通り、国会議事堂の前でどちらに行こうかずいぶん迷ったあげくに築地(?)方面に向かってしまい、ふらふらと引き返してきて、六本木を通り*3、高速道路の下をひたすら歩き続け、渋谷を抜け、結局自宅まで歩いて帰ってきたのだが、着いたのは朝の6時過ぎ。怒りにまかせて歩いたもののさすがに疲れた。

しかし、この話をされたときは「大事な話ってこの話のことかよ?」と憤慨しきりだったのだが、いま考えると私にとっては確かに大事な話だったのかもしれない。というのも、会社の対応が前もってわかっていれば、それなりの対応も取れるわけだし、会社は特に変わりませんよという情報を得るのに早いにこしたことはないわけだ。

となると、今回の「大事な話」事件は総務課長の親心とも取れなくもないが、途中からはたんなる酔っぱらいの戯言になっていたので、判断が難しい。

結局、会社は変わらないというのが今回の結論なのだが、変えるとか変えないとかいう以前に、変えるに値しないような会社も多数存在するわけで、そんな会社をよくしようと頑張るのは時間と労力のムダっつーことやね。もし自分が勤めている会社がそういう会社だということがわかったのなら、すぐに逃げ出してしまってほかの会社に行くというのも一つの手段かもしれない。

というか、それしかない?

*1:総務課長といっても社長秘書みたいなもので社長がいいにくいことを代弁するのが仕事だ

*2:2月25日に私のいる部署の主宰で歓送迎会をしたのである

*3:夜中の3時ごろだというのに人がわさわさとたむろしていた