本日は同僚の派遣社員の女性の契約が切れる日
であります。
その女性を仮にK谷さんと表記させていただきますが、K谷さんはいままで遅刻なんかしたことがないのに、今日にかぎって始業の10時を過ぎても11時を過ぎても、出社してくる気配がありません。
「あれえ? 昨日、来るっていってたよなあ……」
なんて思いつつ、お目付役がいないのをいいことに仕事中に世田谷団体戦の登録用紙にメンバーの名前と住所をせかせかと書き込んでいたりしたのであります。
でも12時を過ぎても出社してこないので、さすがに心配になったらしい編集局長が、
「totsugeki君、K谷さんは来るのかな……?」
と聞いてきたので、
「えーと、昨日は来るっていってましたよ……。それに今日は最後の日ですから来ないってことはないと思うんですけど……」
と自信なさげに答えると、それを傍らで聞いていた編集長が
「ああ、K谷さんは昨日朝の4時くらいまでやってたそうだから午後には来ると思うよ」
と口を添えてくれたのであります。それを聞いた私は内心、
「(最後だっていうのにそんな時間まで仕事させんなよな)」
と思ったのでありますが、
「ああ、そうですか。……だそうです」
と努めてにこやかに答えたのであります。
そして編集長のいったとおり、13時過ぎになにごともなかったかのように出社してきたK谷さんは私がいかにも仕事をしていますといったような雰囲気を醸し出しつつ、ねこ鍋の動画をみているのをみて、なにもいわずにネットの住人となったのであります。
で、おたがいに干渉することもなくひたすらインターネットをみていたわけですが、そろそろ終業だというころに編集長が
「……totsugeki君、ちょっと会議室に集まってくれるかな?」
と声をかけられたのであります。
私は内心なんだろうといぶかしみながら会議室に向かうと、K谷さんを先頭に社員のみなさんがぞろぞろと集まってきて、K谷さんに部屋の中央に進むように促し、その対面に陣取った編集長がおもむろに
「いままでお世話になったK谷さんが本日で契約が切れることになりましたので、みなさんでお送りしたいと思います」
とK谷さんと仲のよい女性陣がなにやら入手が困難だという洋菓子やら和菓子やらを手渡し、最後にK谷さんがお別れのあいさつをして、最後になぜか私も一言あいさつをさせられ、おひらきとなったのでありますが、
「ふつう、派遣社員が辞めるっていってもこんなことしないけどなあ。いい会社なんだなあ。でも、ボクが辞めることになってもこうやってなんかもらえるのかな……?」
などと思いつつ、あんなにヒマだったのにコンペの資料作りとやらのせいでなぜかふつうに残業になってしまったのでありました。