[組版]もっと、ざんしんに
しろという指示が書いてあったのである。
むろん私が頭を捻って、半日かかって考え出したデザインに、である。
「はあ? ざんしんってどんなんですか?」
と私がいったら、
「とにかく、ざんしんにしてくれ」
ということらしいので、ざんしんの意味をgoo辞書で調べてみたところ、
ざんしん 0 【▼斬新】
(形動)[文]ナリ
発想が独自で、それまでに全く類のないさま。
「―なデザイン」
[派生] ――さ(名)
ということらしい。
が、ただ「ざんしんに」しろという指示をされても、この指示を書いた人間にとってなにがざんしんで、なにがざんしんでないのかは私にはさっぱりわからん。それにおいらはデザイナーではないので、そんな要望を出されてもできるわけがない。
だいたい、デザイン料をケチってオペレータにサクッとデザインをさせているくせに、ざんしんなデザインなんか出てくるわけがないっつーの。
ちなみに後日聞いたところによると、この指示は当社の社長(営業上がり)が客の要望を聞いて校正紙に書いたものらしいのだが、自社の営業部員に「いまの営業はセンスがない。なっとらん!!」みたいなことをいうわりには、こんな指示を書いちゃうあんたの営業センスもたかがしれていると思うのは私だけだろうか。
あ、でも待てよ。校正紙には「もっと、ざんしんに」という指示が書いてあったけれども、ひらがなで書いてあるということはもっと違う意味なのかもしれない。
で、またもやgoo辞書で調べてみると……
ざんしん 0 【残心】
(1)不満や未練が残ること。未練。
(2)武道における心構え。一つの動作が終わってもなお緊張を解かないこと。剣道では打ち込んだあとの相手の反撃に備える心の構え、弓道では矢を射たあとその到達点を見極める心の構えをいう。
ざんしん 0 【▼讒臣】
讒言して主君におもねる臣下。
ほうほう、なるほど。
残心のほうでは意味が通じないから、「もっと、ざんしんに」というのは「もっと、私におもねなさい」ということでしたか。校正の赤字で行間を読まなければならないとは奥が深い。
……バカいってないで仕事しよ。