引っ越しを考える
昨日、仕事が終わってから大家のばあさんに手みやげを持って溜まった家賃を払いに行ったのであります(なんで家賃が溜まっているのかは後述)。
そうしたら、
大家:「……あのねぇ、ちょっと申し訳ないんだけど……」
私:「はぁ」
大家:「……実はあたし、この家を出ることになってね」
私:「ええ!?」
大家:「病院つきのところに引っ越そうと思ってるの(注:話を聞いたところによるとなにやら隣に病院がくっついているお年寄り専用のワンルームマンションというものがあるらしい)」
私:「はぁ」
大家:「でね、あなたには申し訳ないんだけど、いま住んでいるところを引っ越すことを考えてほしいの」
私:「……そうすか」
大家:「……もう、あたしも歳じゃない? 本当はもう少しがんばれると思ってたんだけど、乳ガンを患ってから薬の副作用で体の調子が悪くてねえ。それにこの歳になるといつなにがあるかわからないし、一人で孤独に野垂れ死になんていやじゃない?」
私:「まあ、そうですね」
大家:「だから、いますぐにとはいわないけど年内をめどに考えておいてほしいの」
私:「そうですか、わかりました。まあ、遅かれ早かれいずれは出て行かなきゃいけないのはわかってましたからね」
大家:「本当に申し訳ないわね。あなたに会えなくなるのは寂しくなるけど……」
私:「いやいや、こちらこそずいぶんと長い間お世話になりました」
大家:「いやっ、あの、そんなに急いで出て行かなくてもいいのよ。ただ考えておいて……ね?」
私:「はい、わかりました」
……と、ここまでは寂しい老人のちょっと切ないお話であります。
だがこの後、この寂しい老人は「最近、具合が悪くてねえ〜。あまり長いこと立っていると疲れちゃうのよ」などといいながら、一人でしゃべり続け、1時間30分近くも立ち話を続けたのであります。
つうか、「今度自分が入るところは「せりょう(施療?)」の病院で、西本願寺の頭領の長女が本所深川が震災で壊滅したときに起こしたとか、近衛文麿という大臣がいて……あなたは知っているか? とか、戦争で本所深川が壊滅したときにやっぱりこの病院が「せりょう」でみてくれた由緒ある病院なのだ……」とか、内容はとてもよいお話なのです。
けれども、仕事からくたびれて帰ってきてそのうえ夕食もとらずにそこに立っている私にとっては、その大変よいお話も
拷問もしくは罰ゲーム
に近い。
しかも、このおばあさんは渡した金を数えるのはものすごくすばやいが、それをちゃんと受領しましたよという印を押すまでにとても時間がかかるのであります。
で、私はそれを受け取らないと帰れないので、渡してくれるまでじーっと待っているわけですが、私の目からみると絶対にのんびりやって時間を稼いでいるとしか思えない。
それでも最初は「ああ、寂しいんだろうなあ。だったら、話相手くらいしてあげるか」と思い、家賃を払いに行くたびに相手をしていたのですが、最初は30分だったのが、そのうち30分が1時間になり、1時間が1時間30分になり、1時間30分が2時間になり……なんてことになってきてしまったので、最近はまとめて払いに行くようになったというわけであります。
そして今回は21時ちょっと前に家賃を払いに行ったのに、解放されたのが22時30分。
「ああ、疲れた……」
その日、私はぐっすりと眠りについたのでありました。
いや、そうじゃなくて引っ越す場所考えないと。
どこにするかなあ……。